遮熱効果はどの程度あるの?
遮熱塗料を塗装するとどのような効果があるの?
遮熱効果が発揮されると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。冷房空調の有無によって2ケースに分けて考えてみましょう。
内部空気温度(室温)の低減
熱くなった屋根面の熱は伝導によって屋根裏に伝わり、その熱は対流と放射によって室内の空気温度を上昇させます。つまり、屋根面の温度上昇が抑えられれば、室温の上昇も抑えられるということです。例えば、ある学校の建物で実測した例では、施工前と施工後の最高温度差が、天井で16.6℃、室温で7.3℃もあり、十分に遮熱塗料の効果があったことが分かりました。我々が実測したデータで最高に効果が大きかったのは、室温低減が12℃の物件ですが、効果の大小は建物の構造や気象データによって様々ですので、場合によっては殆ど効果がない場合もあり得ると思います。
図-1施工前後の温度比較(学校の工作室)
冷房負荷の低減
1.電気使用量の削減
図-2は、同じ色の遮熱塗料と一般塗料を塗った小屋裏でエアコンの消費電力を比較したところ、遮熱塗料を塗ったことにより消費電力が32%も削減された例です。削減率は様々な要因によって異なりますので、常に32%削減できる訳ではありませんが、5%~40%削減されることが多いようです。
(ビルの空調屋外機)
図-2 電気量削減の例
2.基本料金の削減
電気会社は様々な料金体系を提供していますが、工場などで採用されることの多い高圧電力用の基本料金は、過去12ヵ月で一番使用量の多かった月の使用量に一定の単価を乗じて基本料金として設定し、その単価がその後の11ヵ月にも適用されるというものです。従って、夏季の電力使用量が多い場合には、ピークとなる月が来る前に遮熱塗料を施工すれば、以後12ヶ月の基本料金が安くなる可能性があります。
(参考:東京電力エナジーパートナーのウェブサイト)
3.省エネシミュレーション(熱負荷計算)
電気料金がどの位削減されるかは、事前にシミュレーションすることが可能ですので、目安として検討されてはいかがでしょうか。
熱量計算のご案内 | 遮熱塗料・断熱塗料「ミラクール」販売 | 株式会社 ミラクール
遮熱効果の違いはどのような理由から?
塗料の違いによるもの
遮熱塗料は、沢山のメーカーが数多くの種類を製造販売しています。どのような商材にもいえることですが、同一の商材であったとしても、その性能と価格は様々です。一般的には価格が高いものが高性能で、安いものは性能が低い傾向にあるといえるかもしれません。何故ならば、高品質の製品を作るための原材料は高価なことが多く、結果として塗料の価格が高くなるからです。しかし、塗料メーカーは高性能の商品を低価格で提供しようと日々努力を重ねています。
しかし、高価格にもかかわらず、性能が低い製品もあり得ますので、要注意です。
遮熱塗料の性能
遮熱塗料の性能を大別すると2つあります。
「塗料の耐久性」と「遮熱性能」のいずれも大事なポイントですが、他には遮熱効果の持続性があります。また、塗料の明度は直接的には性能に関係ありませんが、デザインと遮熱効果に係わる重要なポイントです。
1.塗料の耐久性
遮熱塗料は熱的な特性を持った塗料ですが、塗料そもそもの機能として素材の保護と美観の維持が求められます。塗装してからどの位の期間にわたって綺麗な状態を保つことが出来るかがポイントです。安くても、直ぐに剥離や摩耗をしてしまう塗料は、結果として安物買いの銭失いになってしまうのです。塗装に要する費用は、塗料代金+塗装工事代金+足場などの仮設代金で構成されていますが、塗装に要する費用の内で塗料代金が占める割合は少なく、短期間に塗替えることは非常に高い買い物になってしまうのです。
(耐久性に劣る塗料の例)
2.遮熱性能
遮熱塗料の遮熱性能は、①高日射反射、②高放射、③低熱伝導の3要素から成り立っています。
その内で最もその遮熱性能に影響が大きいのが、①日射反射です。太陽エネルギーの内の赤外領域を反射する性能がどの位あるのかがポイントです。JIS K 5675「屋根用高日射反射率塗料」では、明度に応じた赤外領域の反射率を規定しています。
- 明度L*≦40の場合 赤外領域の反射率≧40%
- 40<明度L*<80の場合 赤外領域の反射率≧明度L*
- 明度L*≧80の場合 赤外領域の反射率≧80%
(出典:一般社団法人 日本塗料工業会)
塗料の色相と日射反射率の関係 |(社)日本塗料工業会
②高放射は冷めやすい度合いに関係があります。金属系素材は非常に放射率が低くて冷めにくいのに対して、塗料は概ね放射率が高いので、塗料であればあまり差が出てきません。
③低熱伝導は熱の伝導を抑える機能ですが、塗膜の厚さはミクロン単位(せいぜい1,000μm=1mm)ですので、大きな熱抵抗はありません。断熱塗料という単語は、一般の方が薄い塗膜で分厚い断熱材と同等の熱抵抗を有すると誤認する危険性があるので、丁寧な解説を加えるなど慎重に使用する必要があると考えます。
(塗料で熱伝導を抑えるためには、熱伝導率が断熱材並みに優れていたとしても、厚さが数十ミリメートル以上必要になります。)
JIS K 5602「塗膜の日射反射率の求め方」は、日射反射率の測定方法を規定していますが、2017年に新たにJIS K 5603「塗膜の熱性能-熱流計測法による日射吸収率の求め方」が制定されました。これは、①日射反射、②放射、③熱伝導などのすべての要素を総合的に熱流として測定する方法です。
一般社団法人日本塗料工業会 ではこのJIS K 5603に従って、遮熱塗料(屋根用)自主管理として登録した商品をリストアップしています。
登録申請時に(1)日射反射機能、(2)断熱機能或いは放射機能、(3)その他の機能を申告して申請する制度になっていますが、登録された全ての商品が(1)日射反射機能による遮熱効果となっています。
参考 : 遮熱塗料(屋根用)自主管理要項 一般社団法人 日本塗料工業会
厚みの少ない遮熱塗料に於いては、日射反射機能以外では遮熱性能を発揮できないことが証明された形です。
3.遮熱効果の持続性
塗料の耐久性が低ければ、当然に遮熱効果もすぐに失せてしまいます。しかし、塗料の耐久性が高くても、遮熱性能が落ちてしまうこともあります。最も大きな影響は塗膜表面の汚れです。汚れには土埃のような自然界に存在するものと、煤煙などの工場や車両などから排出されるものがあります。煤煙などに含まれるカーボンの汚れは日射を非常に良く吸収するため、いくら塗装直後の遮熱性能が高くても、カーボンが付着した塗膜の遮熱性能は著しく低下してしまいます。カーボンなどの油系の汚れは、塗膜表面に親水性(撥水性と反対の性能)を持たせると付着しにくくなります。
メーカーカタログの多くが遮熱性能の初期値を表示していますが、本当に大事なのは効果の持続性だということに留意したいものです。JIS K 5675では、2年間の屋外暴露を経て日射反射率(赤外領域)の保持率が80%以上必要と規定しています。
保持率=2年後の日射反射率/初期の日射反射率
(塗料による汚れ方の違い。同日に白色塗料を塗装したものですが、1年後には違いがはっきりしてきます。)
4.塗料の色による違い(特に明度)
遮熱塗料は太陽エネルギーの近赤外領域を高反射するものですが、可視領域にも太陽エネルギーの約半分が含まれています。可視領域は人間が色として識別できる波長(380nm~780nm程度)です。白色に近い色の方が日射反射率は高く、黒色に近い方が日射反射率は低くなり、熱くなります。もし、近赤外領域の反射率(1-吸収率)が同じ塗料があったと仮定すると、白っぽい色を選択した方が太陽エネルギーの全波長領域での反射率が高くなり、結果として熱くなりにくくなります。遮熱塗料の色を決める場合には、色によるデザイン性と遮熱性能(近赤外領域の反射率)のバランスを考えることが必要となります。一般的には白っぽい色の方が遮熱効果は高く、かつ安価な場合が多いです。
建物のどこに塗装するかによる違い
遮熱塗料は太陽エネルギーが直接当たる場所に適用するものですが、費用対効果を考えながらどこに塗装すべきかを決める必要があります。
屋根に塗った場合
遮熱塗料(高日射反射率塗料)は太陽エネルギーに含まれる近赤外線を反射して、太陽光が当たる面の温度上昇を抑制します。従って、夏季において日射量を一番受ける水平面に遮熱塗料を塗装することが一番効果的だと考えます。屋根は水勾配があるものの、概ね水平に近い屋根であれば、屋根面に遮熱塗料を塗装することが最善の策だと考えられます。
図-3に示すとおり、東京における夏至での日射量は圧倒的に水平面で受けていることが分かります。従って、遮熱塗料を塗るなら屋根への塗装が一番費用対効果が高いといえます。
図-3日射量
外壁に塗った場合
図-3を見ると分るとおり、夏季においては東壁と西壁では日射を受ける量が水平面の1/3程度ありますが、南壁と北壁では殆ど日射を受けないことが分かります。
従って、外気温が高くて西日が当たって暑くなるとの事例が多い西壁には遮熱塗料を施工する価値があることも多いです。南壁は、冬季に日射を受けて暖かくなる恩恵を受けている場合があるので、採用に当たっては慎重に検討する必要があると考えます。
建物は東西南北からずれて建っていることが多いので、建物の配置を見ながら検討する必要があります。
(西日対策で効果を発揮した例)
建物の状態による違い
1. 屋根の構造
同一の遮熱塗料を施工したとしても、効果の大小は建物の構造に大きく影響されます。理屈は下記のとおりですが、感覚的には春秋に暑くない室内が夏季には非常に暑くなる建物であれば遮熱塗料が効果的だと考えられます。一方、夏季においても室内が暑くない建物であれば、遮熱塗料を採用する必要性はないと思われます。
① 屋根の素材
屋根の熱抵抗を小さい順に並べると下記のようになります。
② 断熱材
断熱材が十分に施工されている建物は熱抵抗が大きいので、遮熱塗料の必要性は低くなります。
しかし、断熱材が施されていても、グラスウール内部に水が浸入していたりすると、断熱材の性能が激減していることがありますので、もし断熱材が施されていてもなお暑い場合には、建物のチェックを行うなり遮熱塗料の採用を検討されても良いかもしれません。
③ 吊り天井
吊り天井の有無は、熱抵抗の大小に係わります。
④ 天井の高さ
天井が高いと空気量が多くなり、基本的に室温の上昇が緩やかになります。
2. 窓の大きさ
窓からは多量の熱量が出入りしています。窓には単層の板ガラス、ペアガラス、LOW-eガラスなど様々な種類がありますし、ブラインドやカーテンの有無によって建物内部への侵入熱は変わりますが、窓が大きければ大きいほど建物内部に熱が入る可能性が大きいといえます。
3. 内部発熱
内部発熱には大別して以下の3点が挙げられます。建物の外皮(屋根や外壁)からの影響以上に内部発熱が膨大な場合には、室温変動の原因の殆どが内部発熱ということもあります。例えば、製造機器が多量の熱を発していて冬季でも暑い場合などです。
1. 装置・機械からの発熱
2. 照明からの発熱
3. 人体からの発熱
4. 換気量
外気の取入れが非常に多い場合には、建物内部の室温は外気温度と同じくらいに維持されます。従って、そのような建物内部は暑くならないといえます。ただし、換気が機械式ではなく自然換気の場合、無風状態では殆ど換気が行われません。
5. 周辺建物の影
当たり前の話ですが、隣接する建物や樹木などが日差しを遮っている場合には、そもそも太陽光線が当たらないので遮熱塗料は不要です。
建物の状態と遮熱効果の関係をまとめると表-1のようになります。
表-1 遮熱塗料の効果に与える外部因子
その他、見落としがちな大事なポイントやQ&A
冬はどうなる?
近赤外領域を反射する特性を持つのが遮熱塗料ですから、冬季には塗装した面が冷える傾向にあります。ただし、冬季には水平面に当たる日射量が著しく少なくなります。図-4を見ると分かるように、夏季と冬季の水平面に当たる日射量は圧倒的に違います。夏季の大きなメリットと冬季の僅かなデメリットを比較してどちらを選択するかだと思います。
ある論文によると、冬季においての暖房に関わる空調電気使用量に差が無かったとの報告もあります。
高日射反射率塗料の評価方法と効果について|田村昌隆 本橋健司
(参照)(高日射反射率塗料の評価方法と効果について:田村昌隆氏、本橋健司氏)
図-4 季節による日射量の違い
塗装の良し悪し
塗料は半製品です。つまり塗装されて初めて完成品となる訳です。幾ら性能の良い遮熱塗料を選定して、一番効果のある場所に塗装したとしても、施工のやり方が悪ければ期待された効果が出ないかもしれません。或いは、期待された耐久性が発揮できないかもしれません。
塗装する前には下地を十分に清掃することが肝要です。一般的には高圧水洗で十分に洗浄しますが、清掃を怠ってしまうと塗料と素材の間に異物が混入し剥離の原因になり得ます。また、メーカーの指定した所要量を守らなかった場合には、塗膜が薄くなってしまい、性能が十分に発揮されず耐久性も劣ってしまいます。
施工管理をしっかり行う塗装店に依頼することが大事です。
アルミ塗料との違い
遮熱塗料は日射反射率が高く太陽エネルギーをよく反射します。また、反射できなかった太陽エネルギーにより表面温度が上昇しますが、長波放射率が高いので瞬時に大気中に熱を放射して、表面温度の上昇が抑えられます。図-5にミラクール塗膜の表面温度が熱くなりにくいメカニズムを示します。
図-5 ミラクール塗膜の表面温度が熱くなりにくいメカニズム
一方、アルミ塗料の日射反射率はかなり高いのですが、長波放射率が低いために、反射できなかった太陽エネルギーによる表面温度の上昇が蓄積され、表面温度が熱くなります。
遮熱塗料を室外機に塗って効果はあるのか?
何年か前に、あるベンチャー企業の遮熱塗料がテレビに取り上げられました。遮熱塗料を空調機器の室外機に塗装したら冷房費が20%~30%も削減できるというものでした。そこで、空調機器のある大手メーカーに聞いてみたところ、最大でも数パーセントの削減しか出来ないはずとのことでした。
更にインターネットで調べたところ、遮熱塗料ではなく、よしずによる日よけの省エネ効果の報告がありました。大阪市中央卸売市場で、屋上にある直射日光の当たる室外機に日よけをつけたところ、電力使用料が約5%削減したという効果が出たそうです。従って、遮熱塗料を空調機器の室外機に塗装した場合の省エネ効果は5%程度だと思われます。