ガラスに塗る遮熱塗料はあるのか?

建物の屋根や壁で太陽の直射日光が当たって暑くなるところには、遮熱塗料が最適なのは明らかです。
では、ガラス窓に塗る遮熱塗料ってあるのでしょうか?
答えはノーでもありイエスでもあるという複雑なものです。

窓ガラスに塗る遮熱塗料は無い

当社が遮熱塗料という言葉を使うときは、「近赤外線の反射」+「放射」+「断熱」の三位一体で熱の侵入を抑えるものと定義しています。塗膜は薄いので断熱はオマケ程度であり、遮熱効果の効き目の順序は、近赤外線の反射>放射>断熱の順になります。

ですから、遮熱塗料のことを専門用語で高日射反射率塗料と呼ばれ、決して断熱塗料や放熱塗料とは呼ばれません。
この観点からいうと、窓ガラスに塗る遮熱塗料はありません。

日本ペイントさんが可視光線を透過する遮熱塗料の開発をされていますが、可視光線(380~780nm)を全て透過できませんし、コスト的に未だ実用化されていないようです。

参照 : 赤外線反射型透明遮熱塗料 | 日本ペイントホールディングス (nipponpaint-holdings.com)

従って、近赤外線を反射する透明な窓ガラス用の遮熱塗料は未だありません。

室温の上昇を防ぐ塗料はあります

しかし、近赤外線を吸収するタイプの透明な窓ガラス用の塗料は世の中に沢山あります。
可視光線を透過しながら近赤外線を吸収するタイプの塗料も遮熱塗料というのであれば、窓ガラス用の遮熱塗料はあるということになります。この種の塗料は近赤外線を吸収することによって、窓ガラスを透過する近赤外線の量を減らして室内温度の上昇を防ぐものです。では、窓ガラス表面の塗料が吸収した近赤外線のエネルギーは何処に行くというと、窓ガラスを熱くすることに使われます。

窓ガラス塗料が室温上昇を抑える仕組み

この熱くなった窓ガラスからは室外と室内の両方に向かって放射と対流によって熱が移動します。室内と比べて屋外側の風が強いことが多いので、対流による熱伝達量が多くなるので、結果として室内に入るより屋外に逃げる熱量が多くなり、室温上昇を抑える結果となります。

温度差によるガラス窓割れに注意を

ただし、気を付けないといけない点があります。窓ガラスが均一に熱くなる分にはさほど問題にはなりませんが、隣地の建物などの影が窓の一部に掛かってしまう場合には、一枚の窓ガラス面で熱くなるところとそうでないところが出来てしまいます。
ガラスも温度によって伸縮する性能がありますので、この温度差によってガラス面が歪み、場合によってはガラス窓が割れてしまいます。網入りガラスは、網部分があるために外周の切断面が平滑ではないので、特に割れ易くなると言われています。

近赤外線を吸収するキモの原材料

近赤外線用を吸収する透明塗料を配合設計する際のポイントは、ナノサイズに調整された赤外線吸収剤を最適量で混合することです。赤外線吸収剤としては以下の材料が使用されています。

  • ITO(スズ酸化インジウム)
  • ATO(アンチモン酸化スズ)
  • LaB6(六ホウ化ランタン)
  • CWO(セシウム酸化タングステン)
LaB6とCWOは住友金属鉱山株式会社が開発した素材のようです。

http://www.smm.co.jp/products/material/ink/
これらの素材を塗料に混合することによって、可視光線の透過率はある程度確保した上で、近赤外線を吸収する性能を付与することが可能となります。

窓ガラス用の遮熱フィルムはあるのか?

答えはイエスです。
窓ガラス用の(近赤外線を反射するタイプの)遮熱塗料は未だ無いですが、窓ガラス用の(近赤外線を反射するタイプの)フィルムがあります。また、近赤外線を吸収するタイプのフィルムも沢山あります。赤外線を吸収するタイプのフィルムには前述のITOやATOなどのナノサイズの原材料が均一に分散されています。

近赤外線を反射させるフィルム

では、近赤外線を反射するタイプの遮熱フィルムはどのような原理で機能するのか整理してみましょう。反射機能を発現させるためには次の方法が考えられます。

1.真空蒸着

真空蒸着の仕組み

多くのメーカーが採用している技術です。ハーフミラーのように反射させるフィルムは可視光線の透過が少なく、透明性に欠けることが多いようです。
(下記詳細は、ウィキペディアより引用)

真空にした容器の中で、蒸着材料を加熱し気化もしくは昇華して、離れた位置に置かれた基板の表面に付着させ、薄膜を形成するというものである。蒸着材料、基板の種類により、抵抗加熱、電子ビーム、高周波誘導、レーザーなどの方法で加熱される。蒸着材料は、アルミニウム、クロム、亜鉛、金、銀、プラチナ、ニッケルなどの金属類と光学特性を有する薄膜(光学薄膜)では主にSiO2、TiO2、ZrO2、MgF2などの酸化物やフッ化物を使用する。蒸着は金属の他、樹脂や硝子等にも利用され、紙などにも処理が可能である。

2.スパッタリング

帝人フロンティア株式会社のレフテルに代表される透明性を維持しつつも、近赤外線を効果的に反射するタイプのものです。
(下記詳細は、ウィキペディアより引用)

スパッタリングはいわゆる「乾式めっき法」(真空めっき)に分類され、コーティングする対象物を液体や高温気体にさらす事なくめっき処理が出来ることが特徴である。
真空チャンバー内に薄膜としてつけたい金属をターゲットとして設置し、高電圧をかけてイオン化させた希ガス元素(普通はアルゴンを用いる)や窒素(普通は空気由来)を衝突させる。するとターゲット表面の原子がはじき飛ばされ、基板に到達して製膜することが出来る。
原理も単純であり「スパッタ装置」として各種あることから、様々な技術分野で広く使われている。 最近では、高品質の薄膜が要求される半導体、液晶、プラズマディスプレイ、光ディスク用の薄膜を製造する手法として用いられている。

3.マルチレイヤー

3Mジャパン株式会社のマルチレイヤーNANOシリーズは、ナノテクノロジーを駆使して、200層を超える屈折率の異なる透明な膜を重ねることで、高い透明度と近赤外線の反射効果を持つフィルムです。窓ガラスに斜めから入射した近赤外線を室内に入射させずに、効率的に正反射させるものです。

4. 熱線再帰性
熱線再帰性

微細加工された山形の特殊な反射膜により、上方からの近赤外線を上方に反射させ、地表に向かう熱線を低減する遮熱フィルムです。壁面ガラス建築から地面や周囲に反射する近赤外線による熱害、光害、ヒートアイランド現象の抑制を目的として開発されたということです。デクセリアルズ株式会社が開発し製造販売しています。

近赤外線を吸収するフィルム

近赤外線用を吸収するフィルムは近赤外線を吸収する塗料と同様に、ナノサイズに調整された赤外線吸収剤を最適量で混合されています。繰り返しになりますが、赤外線吸収剤としては以下の材料が使用されています。

  • ITO(スズ酸化インジウム)
  • ATO(アンチモン酸化スズ)
  • LaB6(六ホウ化ランタン)
  • CWO(セシウム酸化タングステン)

防犯や怪我防止の効果

尚、いずれのタイプのフィルムも、万一の際にガラスが割れて粉々になるのを防ぐ「飛散防止効果」があります。
窓ガラスを割られて侵入されるのを防いだり、地震や飛散物によるガラスの割れ・飛散を防ぐことが期待できますので、怪我の防止にも役立ちそうです。飛散防止効果はフィルムの強度・厚さによって違いがありますので、メーカーの仕様書を確認してください。

飛散防止の窓

最近は異常気象により竜巻による被害も毎年のようにニュースになっています。窓ガラスが割れると、そこから強風が一気に家の中に吹き込みますので、最悪の場合には屋根が飛ばされたりもします。窓ガラスが割れたとしても、フィルムが飛散を防いで切れれば、被害を最低限に抑えることが可能かも知れません。

選択肢はいろいろ


フィルム

どのフィルムが最適なのかは、求める透明性と近赤外線カット率などを総合的に考える必要性があります。

  • 外の景色は見えなくても、室温上昇を防ぎたい?
  • 外の景色はこれまで通りに見たいので、室温上昇の抑制は最低限でも止む無し?
  • 外の景色も見たいし、室温上昇も抑えたいので、双方のバランスが取れた商品が良い?

等々、先ずは要望内容を整理しましょう。
そして、ネットやカタログで商品情報を集めて、各社製品の性能と価格を比較検討して、どの製品を購入するかを決めては如何でしょうか。

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