読んで字がごとく、遮熱性能を有した舗装のことを遮熱性舗装と呼びます。
路面温度上昇抑制舗装研究会では新規作成供試体に対して10℃以上の温度低減効果があるものとしています。
我々が研究に着手したのは西暦2000年でした。ヒートアイランド現象や地球温暖化現象が大きく取り上げられた最初の頃だったと思います。実際に採用され始めた2004年の夏は記録的に暑くて、マスコミが遮熱性舗装を大きく報じたことが昨日のことのように思い出されます。
因みに、日本の最高気温の記録を調べるとベスト?ワースト?はこのような結果です。(気象庁の過去データによる)
順位 | 都道府県 | 地点 | 観測値(℃) | 起日 |
1 | 静岡県 | 浜松 | 41.1 | 2020年8月17日 |
〃 | 埼玉県 | 熊谷 | 41.1 | 2018年7月23日 |
3 | 岐阜県 | 美濃 | 41 | 2018年8月8日 |
〃 | 岐阜県 | 金山 | 41 | 2018年8月6日 |
〃 | 高知県 | 江川崎 | 41 | 2013年8月12日 |
6 | 静岡県 | 天竜 | 40.9 | 2020年8月16日 |
〃 | 岐阜県 | 多治見 | 40.9 | 2007年8月16日 |
8 | 新潟県 | 中条 | 40.8 | 2018年8月23日 |
〃 | 東京都 | 青梅 | 40.8 | 2018年7月23日 |
〃 | 山形県 | 山形 | 40.8 | 1933年7月25日 |
アスファルト舗装
舗装に最も多く使われている材料はアスファルト混合物です。アスファルト混合物は粗骨材、細骨材、フィラーおよびアスファルトを所定の割合で混合した材料です。アスファルトには優れた性能がたくさんあるのですが、色が黒いために太陽光線を吸収して非常に高温になります。都市部の道路率は約20%もあり、黒くて熱い道路はヒートアイランド現象の要因の一つとして挙げられてきました。
遮熱性能
太陽光線中の特に近赤外線領域を反射する性能によって、太陽が当たる物体の温度上昇を抑制する機能を遮熱性能といいます。道路には白線がありますので、余り白っぽい道路にすると白線の視認性が悪くなりますので、道路は黒っぽくする必要があります。そういう訳で、車道に使われる遮熱塗料は濃いグレーにしていますが、人間が見えない近赤外線を反射しているので、夏場でも余り熱くならない仕組みです。
人間には見えないけれど、太陽エネルギーの約半分を占めている近赤外線を効果的に反射することがポイントです。
遮熱性舗装の目的は?
遮熱性舗装には様々なメリットがありますので、ひとつずつ確認してみましょう。
ヒートアイランド対策
環境省によると、100年間の日本の平均気温上昇が1.5℃に対して東京の平均気温上昇は3.3℃にもなっており、約2倍にも及んでいます。この差はヒートアイランド現象によるものだと考えられています。また、他の主要な都市でも同様傾向が見られるとのことです。東京以上に暑さを感じる大阪や名古屋に限らず、長野市や仙台市でも同様の傾向があるとのことで、ヒートアイランド現象は大都市だけの問題に限ったものではないようです。
2018年は全国的に猛暑日が多く、熱中症による搬送者数は過去最悪の98,137人に達したそうです。そして死者数は160人にも及んでいます。
2019年は猛暑日が少しだけ減り、搬送者数は71,317人、死者数は126人と減少しましたが、地球温暖化由来といわれる気候の変動により、毎年のように熱中症による被害者が後を絶ちません。
では、遮熱性舗装でどの程度ヒートアイランド現象の対策になるのかですが、関連する論文から抜粋してみたいと思います。
東京23区内の道路用地に遮熱性舗装を施工した場合、舗装のアルベド増と表面温度が低下したことに起因して、都心部の大気温度は低下し、正午には0.8℃以上、午後2時でも0.6℃以上の気温低減効果が認められるそうです。
(計算条件)
- アルベド14% → 60%へ増加
- 夏期晴天日を想定
(引用)第25回日本道路会議論文 2004年 木内氏他
アルベド(albedo)とは、天体の外部からの入射光に対する、反射光の比である。反射能(はんしゃのう)とも言う。0以上、1前後以下(1を超えることもある)の無次元量であり、0 – 1の数値そのままか、0 % – 100 %の百分率で表す。
(出典:ウィキペディア)
快適性の向上
遮熱性舗装によってその上を歩行する人間や、周囲に与える影響はどうなのでしょう?最新の論文によると、次のような利点が挙げられています。
-
- 再帰性反射の大きい遮熱性舗装は、人体が吸収する舗装からの水平直達日射の反射量を低減する効果がある。
- 舗装の路面温度が歩行者の熱環境に影響を及ぼし、路面温度の低下が歩行者の熱環境改善に寄与する。
(参照)第32回日本道路会議(2017年)田中氏他
また、多くのアンケート調査が実施されていますが、その全てにおいて快適性の向上が確認されています。
遮熱性舗装による路面温度の低減効果により、全身及び足元部で「暑い」と回答する割合が低下し、とりわけ全身よりも足元部で違いを感じるようです。
(参照)第27回日本道路会議(2007年)井上氏他
我々も日本及びシンガポールで遮熱性舗装だということを告げずにアンケート調査を行いましたが、いずれも遮熱性舗装上が一般舗装上より暑熱感が減少する結果という結果となりました。
(写真)シンガポールのZEB(ゼロ エネルギー ビル)の敷地に塗装された遮熱性舗装
熱帯夜の抑制
東京都の実測によると、熱帯夜の夜間(22-5時)の路面温度を比較すると、遮熱性舗装を施した車道の表面温度は一般車道より平均約2.0℃低いということです。
(参照)雑誌舗装 51-5(2016年)斉藤氏
わだち掘れの抑制
最近のアスファルト道路は改質剤というものが混合されており、以前に比べると高温化による流動性は少なくなりました。筆者のように映画の「三丁目の夕日」の時代に育った世代では、夏にアスファルト道路がぐにゃっと柔らかくなる経験がありますが、最近ではアスファルトに改質剤というものを添加したりして随分と改善されています。しかし、それでもアスファルトは50℃以上になると流動性が増えて(柔らかくなって)、車道の走行路部分にわだち掘れが出来やすくなります。遮熱性舗装を施した道路では、50℃以上になりにくいので、わだち掘れの発生を抑えることが可能になるのです。
一般の車道に限らず、空港の誘導路でも効果があったという事例があります。数百トンもある旅客機が頻繁に走行する誘導路には大きなわだち掘れが出来てしまうのが一般的ですが、遮熱性舗装を施した誘導路ではわだち掘れの深さが二分の一以下に抑えられ、しかもその効果が4年以上も持続することが確認されています。
(参照)土木学会第65回年次学術講演会論文2010年 吉中氏他
道路の耐久性の向上
一般的に車道の平坦性が一定の数値以上に損なわれた場合にはアスファルト舗装の打ち直しになります。前述のとおり、遮熱性舗装によってわだち掘れが減ることから、アスファルト舗装の打ち直し期間を延ばすことが可能になります。
首都高速道路ではレインボーブリッジを過ぎた後の下り勾配で、わだち掘れができ、更にわだち掘れの凹みに亀裂が生じて毎年何度も緊急補修されていたそうです。それが、遮熱性舗装を施した翌年は緊急補修が全く無くなったとのことです。アスファルト舗装の内部温度が60℃から45℃に下がったことがその理由とのことです。
(参照)雑誌舗装 49-2(2014年) 藏治氏
補修工事による渋滞が減るということは、渋滞による経済的損失も減らせることができるといえそうです。
景観の向上
遮熱性舗装はアスファルトなどの舗装の上に耐久性の高い専用の遮熱塗料を散布するものです。遮熱塗料は近赤外線を反射しつつ、可視光線は望まれる色に調色することが可能ですので、用途によって様々な色を提供することができ、公園では自然色に合わせたり、交差点付近では注意喚起のためのベンガラ色(赤茶色)などにすることも可能です。
遮熱性舗装の留意点は?
滑り抵抗性の確保
舗装に最も求められる性能は安全性です。車道においてはスリップによる事故が起こらないように滑り抵抗性を確実に確保することが重要です。
一般的に英国の道路研究所で開発された試験器(ポータブルスキッドレジスタンステスター)にて測定します。この試験機で測定した値がBPN値(すべり抵抗値)です。
測定する舗装材に散水して、振り子の先に取り付けられたゴム製のスライダーを反復運動させて、道路の測定面と接触し滑り抜ける時に生じる抵抗を目盛りで読み取ります。その他にも、日本で開発された方法で、一般には「DFテスター」と呼ばれている測定器や特性試験車で測定する方法などがあります。
路面温度上昇抑制舗装研究会では遮熱性舗装の滑り抵抗性はBPNで車道においては60以上、歩道においては40以上を推奨しています。
速乾性
道路工事は渋滞を引き起こし、時間のロスに伴う経済的損失を生じてしまいます。渋滞を最低限に抑えるために、遮熱性舗装の施工はできるだけ短時間で行うことが要求されます。車道用に使用されている遮熱塗料は2液タイプの超速乾性を持ったものが使用されています。
耐久性
遮熱塗料のはがれにくさを測定する方法が考案されています。「ねじり法」と「打撃法」の2種類による剥がれ面積を測定することによって、遮熱性舗装の耐久性を担保することとなっています。
温度低減の持続性に関しては、東京都では2008年から本格導入され2014年度末までに65kmも施工されてきましたが、施工後5年経過しても約7~9℃の路面温度の抑制効果が持続しているということです。
(参照)雑誌舗装 51-5(2016年)斉藤氏
また、国土交通省 関東地方整備局において2003年に試験施工された遮熱性舗装は、9年経過した2012年時点でも10℃以上の高い温度低減効果があったと報告されています。
施工時の臭気
開発当初の遮熱性舗装にしようされていた遮熱塗料は独特の臭気があり、歩行者や周辺住民の方々の快適性を損なうということで、現在では改良された低臭タイプのものに変更されています。
騒音問題
東京都などでは車両の走行音を抑えることができる低騒音排水性舗装が多く採用されています。この排水性舗装に遮熱塗料を塗布しても騒音が増えることは一切ないことが確認されています。
遮熱性舗装ってどんなところに使われているの?
重交通車道
生活道路
駐車場
歩道
公園・遊歩道
その他
反射した光ってどこに行くの?
反射した光が周囲の壁を温めたりしないの?
遮熱性舗装に再帰性反射がある場合には、太陽エネルギーが来た方向に反射する割合が多く、周辺への影響は無いと言われています。また、再帰性反射が少ない遮熱性舗装でも、反射は鏡のように正反射するのではなく拡散反射なので、入射側の反対側にある建物などを温めたりする可能性は低いと考えられます。
尚、日本のCASBEE(建築環境総合性能評価システム)や米国のLEEDなどでは、建築物の環境負荷を考える上で、敷地内の舗装部分を遮熱性舗装にすることは評価ポイントが加点されることになっており、総合的に環境にやさしい対策と考えられています。
歩いている人が暑くならないの?
遮熱性舗装によって生じる日射反射による歩行者への熱負荷の影響は見られず、路面温度差による輻射熱及び顕熱の違いを体感(暑さ)として感じる傾向にあるようです。
(参照)第27回日本道路会議(2007年)井上氏他
また、被験者の表面温度を測定した結果でも、一般舗装上より遮熱性舗装上の被験者の表面温度の上昇が少ない結果となっています。
(参照)第32回日本道路会議(2017年) 西岡氏他
反射した光が空気を温めないの?
地表に注がれる太陽エネルギーはオゾン、酸素、水蒸気などによって一部が吸収されています。遮熱性舗装で反射された近赤外線は、ほんの僅かは水蒸気などに再吸収されますが、殆どはそのまま宇宙に反射されると考えられます。一方、地表で吸収され高温化した道路などから放射される遠赤外線は空気層で吸収されるのでヒートアイランド現象や地球温暖化現象の原因の一つになると考えられます。
尚、氷河期は地表が日射反射率の高い氷や雪で覆われていたために、殆どの太陽エネルギーが地表で反射され宇宙に戻ってしまったために極寒の気象が続いたと考えられます。
遮熱性舗装にはどんな塗料が使われているの?
当社が扱っている遮熱性舗装用の遮熱塗料には以下のような種類があります。
ポリウレア樹脂塗料
二液硬化型超高耐久性
低臭
重交通車道用
MMA樹脂塗料
二液硬化型高耐久性
低臭
重交通車道用
ポリエステル樹脂塗料
水系一液
低臭
中交通道路用
アクリル樹脂塗料
水系一液
低臭
歩道系道路用
遮熱性舗装を施工するにはどうすればよいの?
遮熱塗料のパイオニアである当社にご一報ください。
全国どこでも施工できる道路会社様をご紹介させていただきます。
株式会社ミラクール
https://miracool.jp/item/item-for-road/