- 深江典之* Noriyuki Fukae
- 村岡克明** Katsuaki Muraoka
- *ミラクール販売株式会社 常務取締役
- **株式会社NIPPOコーポレーション 生産技術機械部、生産技術グループ
1. はじめに
環境省によると、20世紀中に地球全体の平均気温が約0.6℃上昇しているのに対し、日本の大都市として代表的な東京、大阪、名古屋などの6都市においては、平均気温が2〜3℃上昇しており、地球温暖化の傾向に比べて、ヒートアイランド現象の進行傾向が顕著だといわれている。ヒートアイランド現象の原因としては下記が挙げられる。
- *人工排熱の増加(空調、電気機器、燃焼機器、自動車など)
- *地表面の人工化(緑地、水面の減少と建築物・舗装面の増大)
ヒートアイランド対策として、人工排熱の減少や地表面被覆の改善のみならず都市形態の改善や人々のライフスタイルの改善も含めて、様々な分野で対応策が実施・検討されている。ここでは、遮熱塗料(高反射率塗料)によるヒートアイランド対策について報告する。
2. 日射による熱収支
建物の屋根面や舗装面には日射が当たり、太陽エネルギーが素材の表面温度を上昇させる。図1-1に示すように、通常の屋根面や舗装面は日射反射率が低いために、対流顕熱、長波放射および伝導熱が大きくなっており、それがヒートアイランド現象や熱帯夜日数の増加に大きな影響を及ぼしているといわれる。
一方、屋根面や舗装面に遮熱塗料(高反射率塗料)を塗布することによって、図1-2で示すように日射の反射を増やすことが可能であり、対流顕熱、長波放射および伝導熱を低減することが可能となる。
3. 遮熱塗料によるヒートアイランド対策
遮熱塗料による対流顕熱および長波放射の削減は、屋根面・舗装面ともに効果的である。また、伝導熱については、屋根面および舗装面から下向きの熱流が減少するので、蓄熱量を減らすことにより夜間に対流顕熱および長波放射を低減することができ、熱帯夜日数の削減に貢献できると考える。更に、屋根面においては空調設備のある建物の冷房負荷を低減させることによって、人工排熱を減少させることができる。従って、遮熱塗料を屋根面や舗装面に塗装することによって、ヒートアイランド現象の原因といわれる人工排熱の抑制および地表面の人工化による影響を共に低減することが可能となる。入交ら1)によれば建物外皮に高反射率塗料を塗布し都市地盤のアルベドを0.17から0.3に上昇させた場合、日射量が多い昼間に都市気温を0.7℃低下させると試算されている。また、木内ら2) によれば東京都の現状の舗装面のアルベドを0.1から0.6に上昇させた場合、都心部で正午には0.8℃、午後2時でも0.6℃の気温低減効果があると試算されている。
塗料によるヒートアイランド対策の効果についてのフローを図2に示す。
4. 遮熱効果を損なわない調色技術
東京都環境局が策定したヒートアイランド対策ガイドラインによると、対策メニューのうち「屋根面への高反射率塗料の適用」は図3に示すオフィス・商業用建物のみならず工場・倉庫、集合住宅および戸建住宅の全ての建物に対して効果的なメニューとなっている。ただし、高い反射率塗料は眩しさによる近隣への影響を考慮することとの注意が喚起されている。また、舗装面においては安全性を鑑み運転者が眩しさを感じたり、白線の視認性を損ねるような明度の高い色彩は避けなければならない。
当社が取り扱っている遮熱塗料は、中空セラミック微粒子や近赤外線反射特殊顔料等を配合しており、人間には見えないが日射エネルギーの約50%を占める近赤外線を反射して、表面温度の上昇を抑制する特徴を持っている。
ここで、舗装用の遮熱塗料で明度をN40に調色した場合の分光反射率を図4に示す。可視光線は人間が濃いグレーと認識する反射率を示している。赤外線領域については、アスファルトの反射率が僅か4%程度なのに対して高い非常に反射率を示しており、路面温度の上昇を抑制できることが分かる。赤外線反射の最大化を達成するために、原材料の選定、配合設計および製造工程において技術改良を重ねており、開発が進むにつれて赤外線領域の反射率が向上していることが分かる。
5. 遮熱塗料の熱特性
太陽熱エネルギーによる表面温度の上昇および蓄熱を抑えるために塗膜には下記の性能を持たせるべく配合設計している。
- ①日射反射率を高める
太陽エネルギーによる塗膜の温度上昇を抑えるためにもっとも重要な性能である。太陽エネルギーの内、可視光線領域は人が色として認識できる反射特性を持たせ、人には見えないが太陽エネルギーの約半分を持つといわれる近赤外線領域を最大限に反射させる工夫をしている。そのために、近赤外線を反射させる特殊顔料および中空セラミック微粒子を各色相、各用途に応じて最適な配合比率で混合している。グレー(N6)に調色した場合の遮熱塗料「商品名:ミラクール」と一般塗料の反射率の比較は表1に示すとおり。
(ここで、日射反射率は300-2500nm、可視光線反射率は300-780nm、近赤外線反射率は780-2500nmの波長領域でJIS R 3106に従って測定した分光反射率を示す。)
また、白色塗料の場合、二酸化チタンによって可視光線領域、近赤外線領域ともに反射率を最大に上げているが、表2に示すとおり中空セラミック微粒子の混合により近赤外線領域の反射率を更に向上させている。
- ②放射率を高める
物質はその温度に従った放射エネルギーを出しており、向き合った高温物質から低温物質へと電磁波の形で熱が伝わる状態を放射熱伝達というが、放射熱の度合いは物質固有の放射率εによって違いが生じる。夏期日中の屋根面などは大気よりも高温となっているので、屋根面から大気に向かって放射エネルギーによる熱移動が起こり、屋根面の温度は下がる。従って、屋根面の放射率εを高くすれば、放射熱伝達によって屋根面の温度を低く抑えることができる。例えば、光沢アルミニウムペイントの日射反射率は50〜70%と比較的高いが、放射率は一般塗料の85〜95%と比較して40〜60%と低く、表面温度が高くなる要因となっている。ミラクールは一般塗料と同様に放射率は高いが、表3に示すように中空セラミック微粒子を配合することにより更に放射率を高めている。
米国のASTM E1980-1では、Solar Reflectance Index(日射反射指数)の計算方法が規定してあり、その計算に必要な要素として、日射反射率に加えて放射率や風速の違いによる対流熱伝達率が示されている。上述の光沢アルミニウムペイントと同じ日射反射率の高反射率塗料の放射率を95%と仮定した場合のSRI(日射反射指数)を計算すると下表のようになる。(ただし、対流熱伝達率は微風5W・m-2・K-1の場合)
従って、ある程度反射率は高いが放射率の低い金属素材やアルミニウムペイントを屋根に使用する場合には注意が必要と考える。
- ③熱伝導を低くする
熱伝導率はバインダー樹脂の熱伝導率に大きく依存し、格段に低い熱伝導率を達成することは困難であるが、塗膜中に中空セラミック微粒子を配合することにより、熱伝導率が低くなるように設計している。しかし、塗膜の厚さは1mm内外であり、厚さが数ミリから数百ミリもある一般的な断熱材の熱抵抗値と比較すべくもなく、あくまでも微かな補完的要素と位置づけ、当社では断熱塗料という言葉を使用しないように留意している。
6. 遮熱塗料による表面温度低減効果の実例
6.1 建築用
東京都環境局、武蔵工業大学近藤研究室と塗料メーカー5社(グループ)は、旧小学校屋上に遮熱塗料を施工し、室内熱環境緩和効果およびヒートアイランド現象緩和効果の確認実験を協同で実施した。当社取扱商品では、建設用遮熱塗料「長島特殊塗料(株)」及び道路用遮熱塗料「(独)土木研究所、(株)NIPPOコーポレーション、長島特殊塗料(株)」が施工された。建物の屋上塗装状況を写真1に示す。
実測対象となった鉄筋コンクリート造の教室寸法は7mx9mx3m(吊り天井高)であり、石膏ボード間仕切り壁で2分割され、各測定部分の部屋面積は31.5㎡である。測定ポイントの詳細は図5に示すとおり。
屋根表面温度の比較をすると、図6のとおり、鉄筋コンクリートの屋根面と比較して遮熱塗料を塗布した屋根面では温度上昇が大幅に抑制されていることが分かる。遮熱塗料による温度低減効果は正午前後において10〜15℃となった。また日没後においても1〜3℃の温度低減効果が確認できている。従って高反射率塗料は日射による蓄熱を軽減させる効果があると考えられる。また、同様に屋根裏温度においては19時前後に5〜7℃、吊り天井のある教室の室温でも2〜3℃の温度低減効果が確認できた。(文献4)による)
この実測結果を基にシュミレーションされた結果では、東京都23区の屋根面を高反射率化することによる対流顕熱の低減量は、晴天日の場合、東京都23区で発生する夏期日の人工排熱量の57.2%に相当し、曇天日においても人工排熱量の11.8%に相当する。(文献5)による)
遮熱塗料による室温低減効果は、建物の構造、内部発熱量、換気量などによって違ってくるが、鋼板屋根(吊天井なし)で空調設備の無い場合での温度低減効果は高く、5〜10℃程度の室温低下が実測されている。
図7は近接している2棟の倉庫で、1棟の鋼板屋根に遮熱塗料を塗装し未塗装倉庫との比較をした例だが、室内温度差は約9℃を記録している。
また、空調設備のある場合には屋根からの貫流熱量を低減することによって冷房負荷を削減することが可能となる。建物の構造、換気回数、内部発熱の状況により省エネ効果に違いがあるが、シュミレーションおよび実測結果では約15〜40%の冷房負荷削減が達成されている。従って、冷房に要するエネルギーを減少させ、空調機器の排熱も削減できることから、ヒートアイランド現象の緩和に役立つと考えられる。
6.2 舗装用
図8は、試験ヤードを構築し晴天下において表面温度を測定した結果である。遮熱塗料を塗装した明度N4.0の遮熱舗装と一般の密粒舗装の比較では、正午前後において14〜15℃の表面温度低減効果が確認できた。また、夜間においては遮熱舗装の方が畜熱量が少ないために約3℃温度が低くなっており、熱帯夜の緩和に役立つことが伺える。
遮熱性舗装は蒸発潜熱を利用する保水性舗装のように水を必要としないので、人為的な散水の必要がなく、また晴天が続く状況でも持続して温度低減効果を発揮でき、継続的にヒートアイランド緩和に役立つと考える。遮熱性舗装の実施例を写真2および写真3に示す。
図9に示す施工実績のとおり、遮熱性舗装は平成14年から一般道路などへの適用が始まり、施工面積は着実に増えてきている。これには、国や東京都、大都市圏の地方自治体の切直的な取り組みが大きく影響しているが、反面、その環境問題の深刻さも伺い知れる。
7. 反射した日射はどこにゆくのか
地球規模での熱収支は、気象学の分野においてモデル化されており、図10は、日射を100%としたときの熱移動量を年間平均として%で示したものである。
ここで注目すべき点は、地表において反射した日射はほとんどが大気を通過して宇宙空間に放射されるのに対し、地表から放出される顕熱輸送や潜熱輸送、遠赤外線による長波放射については一旦大気中に熱として取り込まれ、長波放射として宇宙空間以外にも地表側へ再放射されることである。したがって、地表からの熱の放出が起因する大気温度の上昇を抑制するためには、地表面のアルベド(日射反射率)を高めて日射の地表への吸収を抑制し、地表面温度を低減して放出熱量を削減することが重要であると考える。
反射した太陽エネルギーが通行人を暑くさせるとの懸念があるが、京都市で行われたアンケート結果によると、歩道部において通行人の47%が涼しいと感じ、暑く感じる人は僅か3%に過ぎない。(文献7)による)
また、入射した太陽光は拡散反射するのではなく、再帰性反射をしていることが分かっており、反射光が周囲の建物に与える影響は軽微だと考えられる。(文献8)による)
8. おわりに
遮熱塗料(高反射率塗料)の開発を始めて15余年になるが、当初は建築用の白色から始まったが調色タイプ(近赤外線を反射)が完成したことにより、白色以外の屋根用、道路用のみならず陸上競技場用にもその適用範囲が拡大している。
防衛関係施設では遮熱塗料による熱対策が効果的な建物・施設・装備が多数あると思われるが、当社の近赤外線を反射せしめる技術が予期せぬ分野で応用展開できる可能性を秘めているのではないかと期待される。
2008年9月にはJIS K 5602「塗膜の日射反射率の求め方」が制定され、世間での認知度も上がりつつあると実感しているが、次は遮熱塗料(高反射率塗料)の性能に関するJISが早期に策定されることが望まれる。
今後もヒートアイランド対策に微力ながら貢献できるように更なる技術革新を進めて行きたい。
- [参考文献]
- 1) 「高反射率塗料による省エネルギー効果および都市気温への影響」
入交ほか 1999年 空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集 - 2)「遮熱性舗装による都市熱環境改善効果に関する考察」
木内ほか 2004年 第25回日本道路会議講演会論文集 - 3)「遮熱性舗装の高性能化に関する研究」
吉中ほか 2004年 第25回日本道路会議講演会論文集 - 4)「実測による高反射率塗料の遮熱性能に関する研究」
大木ほか 2005年 日本建築学会学術講演会講演論文集 - 5)「実測による高反射率塗料の遮熱性能および都市気温への影響」
米山ほか 2005 年武蔵工業大学卒業論文梗概集 - 6)土木学会舗装工学研究小委員会報告書2000
- 7)「都市環境に配慮した新舗装に係る共同研究について」
星野ほか 2006年 第26回日本道路会議講演会論文集 - 8)「都市環境に配慮した新舗装に係る共同研究について」
護摩堂ほか 2006年 第26回日本道路会議講演会論文集 - 9)「Standard Practice for Calculating Solar Reflectance Index of Horizontal and Low-Sloped Opaque Surface」ASTM E1980-1
- 11.ヒートアイランド現象を緩和する遮熱塗料(高反射率塗料) >>ダウンロード