Improvement of heat environment of a gymnasium designed for danse lessons
(平成22年12月3日受理)
- 伊藤 武彦、TAKEHIKO ITO *1
- 鈴木 久雄、HISAO SUZUKI *1,2
- 加賀 勝、MASARU KAGA *2
- *1 岡山大学大学院教育学研究科 〒700-8530 岡山市北区津島中 3-1-1
- Graduate School of Educasin, Okayama University, 3-1-1, Tsushima-Naka, Kita-ku, Okayama City 700-8530 Japan
- *2 岡山大学スポーツ教育センター 〒700-8530 岡山市北区津島中 2-1-1
- Interactive Sports Education Center, Okayama University, 2-1-1, Tsushima-Naka, Kita-ku, Okayama City 700-8530 Japan
Abstract: Nowadays, we experience severe hot climate during summer. Ambient temperature and wet bulb globe temperature(WBGT) in our gymnasium designed for dance lessons exceeded exposure limits of both school health and industrial health. Such environment was our direct concern for risk of heat related disorders among students, guests and staffs using facility. The building was old, and heat insulation seemed to be insufficient compared to recent standards for the building of the same kind. Introduction of a new air conditioning system to the facility was supposed reflex the solar infrared irradiation and block the heat influx, thus lowering the ambient temperature inside the gymnasium. The renovation of the roof resulted in improved ambient temperature and WBGT. We concluded that application of high-albedo paint might be a useful technique to control high ambient temperature in similar buildings and to reduce risk of heat related disorders.
Key words:high-albedo paint, wet bulb globe temperature heat stroke.
1. 緒言
体育館のような屋内運動施設は直射日光がために、屋外よりも安全と感じられる場合もあるが、実際には実施される種目により閉め切って使われるなど、気温やWBGTが思いのほか高くなる場合がある[1,2]。卓球やバドミントンなど気流を制御したい場合や、ダンスの様に音楽を併用する為に、周囲の教室等の静隠を保ちたい場合などがその例である。実際の測定例に関する報告をみると、屋内運動施設は熱中症発生リスクをむしろ考えるべき施設である。
教育学部が管理する体育棟2階に設置されているダンス練習場の暑熱環境は改善を要する箇所として認識されてきた。このダンス練習場は、教員養成における必修科目の一つであるダンスを教授するために必要な空間であり、昭和54年度の竣工以来、それを主たる用途として維持されて来た。また、資格認定試験、免許更新講習など、学外に開かれた行事を開催するもにも活用されている。さらに、課外活動の場としてダンス部が使用している。このようにダンス練習場は本学の教育・研究活動や社会貢献活動に広く使用される場である。
大学に対しても学校保険安全法が適用されるので(同法第二条)、学校環境衛生の基準(同法第六条およびそれを根拠とする文部科学省令)も適用されている。体育館など屋内運動施設は「教室等」に該当することから、気温や湿度については明確な基準がある。また、教職員が業務としてダンス練習場を使用する場合は、あわせて労働安全衛生法が適用されると考えるべきである。そうであれば、暑熱環境に対する適切な作業環境管理が必要である。実際、教員やティーチングアシスタントの聞き取りによれば、室内の気温の高さが尋常ではなく、授業中に集中力が続かなかったり、あるいは気分不良を訴えたりする学生もあり、また担当教員自身も教授すべき内容をすべて遂行することは熱中症発生の危険を考慮し困難であると考えていた。さらに、連続する授業の場合は、暑熱曝露による担当教員自身の身体的負担を自覚していた。
そこで、伊藤らが開発して使用して来た湿球黒球温度(wet bulb blobe temperature; WBGT)の自動測定記録装置[3]をダンス練習場に設置し、簡易に環境測定と評価を行った。その結果、熱中症予防の観点から迅速に対応をとるべき事例と判断されたため、教育学部とスポーツ教育センターが協力してダンス練習場の暑熱環境の改善に取り組んだ。具体的にはダンス練習場の屋根に遮熱塗料を塗る修繕工事を実施し、暑熱環境の緩和を図った。本稿は今回経験した事例を報告するとともに、若干の考察を加えたものである。
2. 対象と方法
2.1 対象となった施設の概要
今回暑熱環境改善のための取り組みの対象となった建物は、昭和53年に「教育学部校舎新営その他工事」の中で体育棟2階として設計され、昭和54年に竣工している。ダンス練習場(図面ではダンスレッスン場)は体育棟2階の西側に位置し、東西16.0mx南北13.5m(但し壁の厚さ等を含む)で、天井の高さは3.5mである。設計図面を見ると床については「鋼製床組コンパネ暑さ 12mm捨貼、サクラフローリング厚さ 15mm、ポリウレタン塗仕上げ」、壁については「ラミンフローリング厚さ 15mm」、天井については「ロックウール吸音板厚さ 12mm」と記載されている。床は、コンクリート面から高さ30cmになるように支えられた作りになっている。
窓は北面、南面の両面に配置されている。また換気扇も南北両面に3基ずつ設置されている。しかし、竣工当時の窓には網戸は設置されていない。
屋根は長尺カラー亜鉛鉄板 折版構法(高さ175mm, 厚さ0.8mm, 断熱材厚さ4mm)で葺かれている。屋根の大きさは20.3mx15.5m(面積314.7㎡)であり、屋根と天井の間隔は概ね70cmである。、あた屋根の地上高は8.8mである。
2.2 施工の内容
ダンス練習場の屋根への遮熱塗装工事は平成22年8月9日〜11日に行われた。塗装をする屋根は経年変化により、錆の発生を含めて劣化が進んでいたために、必要な補修(谷樋清掃、既存パテ回収、素地調整、高圧洗浄、凹部に鉄部用パテ処理など)を行った。その後に防錆プライマー塗装(変性エポキシ樹脂防錆塗料2液型)を行った。中塗材にはミラクールSⅡプライマー(2液型)、上塗材にはミラクールS100(2液型、クールホワイト)を使用した[4]。なお、この工事に続くほぼ同じ時期にダンス練習場の全ての窓に網戸を取り付ける工事を行った。
2.3 施工前後の計測
WBGTの自動計測記録装置は、ダンス練習場の内部の北側の壁(高さ2m)に設置し、この装置を使って、10分間隔で乾球温度、相対温度、黒球温度を測定した。WBGTは屋内の定義式に従って、
WBGT=0.3x黒球温度+0.7x湿球温度 で計算した。
同様の測定装置は、サッカー場や剣道場にも常設しており、ダンス練習場の測定と同じ時刻の測定値を参照することができたので、これから得られたデータとダンス練習場のそれとを比較して、今回の取り組みの効果について検討した。
3. 取り組みの結果
図1に遮熱塗料を塗る工事の施工日(8月9日〜11日)を挟んだ前後約一週間のダンス練習場内と剣道場内の気温(乾球温度)の推移を示した。
夏期休業中のために閉め切っていたこともあるが、典型的には8月2日にみられたように、室温が40℃を越える場合が観察された。剣道場は新規に増築された部分で、平成22年度から使用を始めており、断熱材の使用などは最新の基準によって施工されている。一方、ダンス練習場は、体育棟が竣工した昭和50年代の基準によって施工されており、老朽化している。遮熱塗料を塗る前の気温の比較では、剣道法の方が最高気温が低く、日周変動が小さく、気温の変化は平滑であった。遮熱塗料をした後では、ダンス練習場は、剣道場よりは日周変動は大きいものの、最高気温が低下するなど、屋根の温度の上昇や貫流熱による室内の温度上昇の抑制が観察された。
図2に、図1と同じ期間のダンス練習場と剣道場のWBGTの推移を示した。
日本体育協会ではWBGTが31℃以上の場合を「原則運動中止レベル」、28℃以上31℃未満を「厳重警戒レベル」としている。施工前には、ダンス練習場ではWBGTが運動中止レベルである時間帯がみられたのに対して、剣道場では、そのような時間帯はグラフの範囲内では存在しなかった。施工後は、ダンス練習場のWBGTの最高値が依然として31℃を超えた日があったものの、剣道場のWBGTに接近する傾向が観察された。
図3に図1と同じ期間のダンス練習場とサッカー場(屋外)の気温の推移を示した。遮熱塗装後はダンス練習場内の気温がサッカー場の気温に接近していた。
4. 考察
改善工事の施工前の測定ではダンス練習場内の気温(乾球温度)が「学校環境衛生の基準」が定めている「30℃以下」を大きく上回っていたことから、学校保護安全法にもとづいて事後措置をとる必要があると考えられた。また、日本体育協会が推奨する熱中症対策のためのリスク指標であるWBGTも運動中止レベルである31℃を遙かに越えるときがあり、運動をおこなう施設として適切な環境を確保すべき状態にあった。
ダンス練習場では、上述のように暑熱環境の問題が以前より存在しており、これまでに製氷機など設備の充実や熱中症予防のための学生へ指導など学校保健上の各種配慮がなされてきた。しかし、学校保健の目的は「学校教育の円滑は実施とその結果の確保に資すること」であり、学生が安全・快適に授業を受けられるようにするためには、今回行ったような授業環境そのものを改善する試みも必要と考えられた。
実施した対策の結果を見ると、依然として気温は30℃を超えていたが、新しい基準で作られている屋内運動施設である剣道場の気温との差が小さくなっていた。WBGTについても、ピークでは運動中止レベルになった日があるが、気温と同様に剣道場の測定結果に接近している。また、施工後は屋外の気温とダンス練習場内部の気温が接近している。屋外の気温がピークとなる時刻をすぎてから屋内の気温が高めに持続する一般傾向はあるが、屋根等からの貫流熱が少なくなった状況下では、換気によって室温を外気温に近づけることが可能である。
しかし、現実には音漏れのほかに、夕方以降の蚊などの衛生害虫の侵入を避けるために窓を開けられずにいたことを聞き取っており、施設使用の実情に合わせた対策も必要であった。そこで今回はすべての窓に網戸を取り付けたが、以前より換気が容易になったと思われる。将来的には、さらに換気効率を上げるような工学的な対策も視野に入れてよいであろう。
産業保健の観点からみれば、授業実施社が自らも熱中症になるかも知れないと感じるほどの環境が、比較的運動量が大きいダンス競技という身体活動と共存することによって熱中症のリスクが高まることが考えられた。このような場合は、まず作業環境測定によってWBGTを測定・評価し、作業環境におけるリスク評価をするとともに、それにもとづいて工学的な措置によってリスク低減を図ることが適切である[5]。今回の対策によって、一定のリスク低減を行うことができたが、従来から行って来た授業内容の変更・運動時間の短縮、飲水や塩分補給、涼しい場所の確保などの管理的方法も一層充実させるとともに、労働衛生教育(学生に対しては学校保護教育になる)を徹底することが熱中症予防のために今後も必要である。
今回、ダンス練習場の暑熱環境管理の具体的選択肢として検討した方法は、空調機の新規導入、断熱材の補強および屋根への遮熱塗装であった。しかし、学内外で推進されている省エネルギー政策に従えば、断熱性能が十分でない建物に対する新たな空調機導入は避けるべきものと考えられた。また、仮に空調設備を新たに設置するにしても、それを維持するための十分な容量を持った電源設備を新たに確保する必要があった。断熱材の補強についても、今回は現実的な方法とは考えられなかった。遮熱塗料については、高アルベド塗装の性能向上にともなって、種々の対応例が報告されている[6,7]。今回のダンス練習場内の温度上昇は、屋根への太陽の放射が室内への熱貫流となっているものとかんがえられ、遮熱塗料によって赤外線を効率よく反射するとともに、塗装面の放射係数を改善することによって屋根の表面温を下げ、熱貫流を減少させることが期待された。実際得られた測定結果を見ると、遮熱塗装後は気温及びWBGTの低下が観察され、熱貫流が抑制されたと考えられた。
遮熱塗装は、屋根等塗装面の表面温度を抑制する効果があり、近年は道路面についても応用されている[8]。広い範囲の遮熱塗装によって昼間の温度上昇を抑制することができれば、ヒートアイランド化の抑制に役立つことが考えられる[7,9]。また、建物など構造物単位でみても、熱貫流が抑制することができれば、既存の空調設備の負荷を減少させうることから、省エネルギー政策や地球温暖化防止の為に有効であろう。
今回のとりk見は比較的小さい施設に限った対策であったが、一般の校舎等の大きい施設の屋上を遮熱塗装し、最上階の居住環境を改善するとともに冷房時の負荷を軽減して省エネルギーを推進する取り組みも可能である。そのような取り組みを実現するためにも、今回の経験が役に立つことを願っている。
5. 結論
- (1)屋内運動施設であるダンス練習場の夏季の暑熱環境を改善するために、屋根に遮熱塗料を塗り、窓に網戸を取り付ける改修を実施した。
- (2)改修前には学校保健安全法の学校環境衛生の基準を10℃程度上回っていた最高気温が、同じ時刻の本学サッカー場の気温とほぼ同等レベルまで改善した。熱中症発症のリスクを示すWBGTについても、日本体育協会の提唱する「原則運動中止基準」をしばしば上回っていたが、回収後は昨年度竣工した剣道場のWBGTに接近していた。
- (3)今般の改修によって、ダンス練習場の暑熱環境は改善された。しかし、施設内環境を制御しきれない部分は残っており、今後も水分・塩分補給の指導や運動実施上の諸注意など、学校保健および労働安全衛生上の一般的な配慮は必要である。
- (4)今回の事例は、比較的小規模の施設で暑熱環境の改善を図った例であるが、校舎等のもっと規模が大きい施設の屋上等に同様の改修を行うことにより、居住環境の改善や省エネルギーを推進する取り組みを行うための参考となる事例と考えられた。
- [参考文献]
- 1う府木薫、文谷知明、屋内体育施設における7・8月期の環境温度の実態、川崎医療福祉学会誌、19, 185-188 (2009)
- 2)伊藤武彦、熱中症を科学する、日本養護教諭教育学会誌 12,129-133(2009)
- 3)伊藤武彦、三村由香里、鈴木久雄、熱中症予防対策のための湿球黒球温度の簡便な自動測定記録装置、岡山大学大学院教育学研究科研究集録 140,1-5(2009)
- 4)深江典之、「ミラクール」シリーズの特徴、塗装技術、47, 88-91(2008)
- 5)中央労働災害防止協会、労働衛生のしおり 平成21年度版、pp108-112(2009)
- 6)源島弘之、赤外線反射コーティング、桐生春雄、三代澤良明 監修、特殊機能コーティング技術、シーエムシー出版 pp56-68(2007)
- 7)和田英男、高反射率塗料のJIS化と開発動向ー高反射率塗料市場の健全な発展ー、塗装技術 48, 94-98
- 8)宮下昌訓、篠原雅之、建築容赦熱・断熱塗料と道路用遮熱塗料について、塗装技術 47, 94-98(2008)
- 9)和田英男、高反射率塗料によるヒートアイランド対策と、日射反射率測定法のJIS規格化について、塗装技術 47, 57-63(2008)
[謝辞]
今回の取り組みは岡田雅夫理事、安全衛生部の皆様、教育学系事務部の皆様のご助言とご尽力によって実現することができました。ここに謝意を表します。
- 17.ダンス練習場の暑熱環境改善の一事例 >>ダウンロード