7. 高反射率塗料製品の日射反射性能に関する研究

Performance of High Reflective Paints for Building Envelops

(その2)入射角による日射反射率の差異に関する測定

Part 2. Field Measurements of Solar Refletane at Various Incidence Angeles

正会員 ◯ 藤本 哲夫*、FUJIMOTO Tetsuo
同 近藤 靖史**、KONDO Yasushi
同 岡田 朋和***、OKADA Tomokazu

キーワード:高反射率塗料 日射反射率 入射角

1 目的

前報(その1)で分光光度計による日射反射率測定結果について示したが、実際の建物においては、太陽高度・方位の変化に伴い、時々刻々入射角が変化する。入射角の変化に対して、高反射率塗料の日射反射率がどのように変化するかについて検討は充分なされているとは言い難い。本報(その2)では高反射率塗料を実際の太陽光に暴露し、入射角(太陽高度・方位)の違いによる日射反射率を試験体表面温度の測定結果から算出した。また、前報(その1)での分光高度計による測定結果との比較を行い、入射角による反射率の違いを検討する。

2 試験体

試験体は、中央部にT型熱電対(0.2mmφ)を貼り付けた鋼板(厚さ1mm、300x300mm)に塗料を塗布し、裏面は厚さ25mmのスチレンフォーム断熱材で断熱した。
試験体は、白色21種類、灰色19種類、黒色19種類の計59種類である。

3 測定方法

測定は、図1に示す装置で行った。日射反射率をあらかじめ分光光度計(入射角8°)で測定した標準試料(黒色、白色2種類)を用意し、以下の式から各試験体の日射反射率を求めた。試験体の勾配は、23°一定、標準試料は太陽光の入射角が常に8°となるように調整した。また、各試験体の半球放射率をフーリエ変換赤外分光光度計((株)島津製作所:FT-IR)で測定し、実効放射(夜間放射)の影響を加味した。表-1に半球放射率測定結果を示す。(3)式中のcosθ/cos8は、直達日射成分にのみかかるべきものであるが、成分として直達日射分が支配的であることから、簡易的に(3)式の形としている。
ここで、各試験体表面の対流熱伝導率および外気温度は一様、各試験体の半球放射率は時刻により変化しない、と仮定している。測定は、2004年2月から3月にかけて行った。

(1),(2),(3)式から次式が導かれる。


 

試験体裏面への貫流熱量は、ここでは無視しているが、実測では日射量に対し白色1〜2%、黒色で5%程度である。

試験装置概要

図-1 試験装置概要

4 測定結果

(1)入射角による日射反射率の差異
入射角と日射反射率の関係の一例を図-2に示す。ここで示す日射反射率は、(4)式、(5)式で算出したものである。比較のために分光光度計による測定結果も同時に示した。入射角8°での値が分光光度計によるものである。図-2に示したのは、21試験体中の1つであるが、他もほぼ同様な傾向を示している。色によらず、入射角が大きくなるほど日射反射率の値は高くなっている。また、白色→灰色→黒色と色が濃くなる(反射率が小さくなる)につれて勾配が大きくなっており、入射角の違いによる反射率への影響が大きい。成瀬ら2)の報告では、波長の長い部分では入射角が大きくなるほど反射率が大きくなることを示している。

(2)分光高度計による測定との比較
各測定日の10:00〜15:00の平均日射反射率測定結果と分光光度計による結果との比較を図-3に示す。分光光度計による値と比較するとほとんどの試験体で白色の場合は太陽光で測定した値の方がやや大きく灰色と黒色の場合はやや小さい。しかし、その差は小さく分光光度計による測定値とほぼ一致している。全試験体の分光光度計による日射反射率と、試料表面温度(Ti)と外気温度(To)との差を日射量(J)で割った値の関係を示したのが図4であり、ほぼ直線的な関係が得られている。これを回帰式で表すと次式になる。

Ti-To=(0.0428-0.0462R;)・J   ・・・(6)

これは、今回の測定条件による測定結果から得られたもので、実際の建物に用いられた場合の塗料表面温度をそのまま表すものではないが、塗料の性能を示す一つの指標となりうるといえる。

半球放射率測定結果

表-1 半球放射率測定結果

入射角と反射率

図-2 入射角と反射率

日射反射率の比較

図-3 日射反射率の比較

 

日射反射率と温度差

図-4 日射反射率と温度差

5 まとめ

実際の太陽光を用いた暴露実験による高反射性塗料の日射反射率測定結果について報告した。分光光度計による実験室レベルでの評価で十分実用的であることを示したが、材料の劣化、汚れ等の要因が反射率に与える影響についての検討、また、夏季の条件での測定等を今後検討したい。さらに、今後のヒートアイランド対策や建物の熱負荷を考える場合、建物内への貫流熱量も重要な検討課題である。


[謝辞]
本研究の測定にあたり(財)建材試験センターの萩原・田坂・松本各氏、及び調整事務方として(財)日本システム研究所の石田氏、東京都環境局の光本氏に感謝の意を表してここに記します。

[参考文献]
1) 近藤靖史、長澤康弘、入交麻衣子:高反射率塗料による日射熱負荷軽減とヒートアイランド現象の暖和に関する研究。
空気調和・衛生工学会論文集、第78号 pp15-24, 2000.7
2) 成瀬哲生、張牛牛、伊藤吉郎、中村和弘、本郷琢磨:表面粗さの異なるアルミニウムの分光反射率の測定。日本建築学会技術報告集。第13号 pp113-118、2001.7
3) 小南和也、倉橋岩夫、小早川香:高反射率塗料の遮熱性能に関する研究。(財)日本建築総合試験所、GBRC、第105号 pp33-40、2002.2

*(財)建材試験センター中央試験所 Japan Testing Center for Construction Materials, Central Laboratory
**武蔵工業大学教授・工博 Prof., Musashi Institute of Technology, Dr. Eng.
***東京環境局 Tokyo Metropolitan Government, Bureau of Environment

  • 7. 高反射率塗料製品の日射反射性能に関する研究【その1】各種高反射率塗料の分光反射率測定  >>ダウンロード
  • 7. 高反射率塗料製品の日射反射性能に関する研究【その2】入射角による日射反射率の差異に関する測定  >>ダウンロード
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カテゴリー: 各種データ・論文

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