- 土木研究所水工研究グループ ◯木内 豪
- (株)NIPPOコーポレーション技術研究所 吉中 保
- 長島特殊塗料(株)機能塗料事業部 深江 典之
1. はじめに
大都市圏における夏期熱環境の悪化は大きな社会問題に発展しており、産学官で多様な取り組みが行われている。道路・舗装分野においても様々な貢献策が考えられるが、中でも保水性舗装や遮熱性舗装による舗装体の高温化防止が期待され、国と自治体により実道等における試験施工と性能確認がなされつつある。遮熱性舗装は効果の持続性や既設舗装への施工性で優れているが、反射日射により人体への熱負荷が増えるのではないか、反射日射により大気が加熱されるのではないかという点も指摘されている。そこで、本論文においてはいくつかの観点から遮熱性舗装による都市熱環境改善の可能性に関して考察を行った。
2. 熱環境改善効果の定量化
(1) 舗装体温度の変化
舗装供試体レベルでの温度低減性能の実測による性能の確認を行った。図1は数種類の反射性塗膜を用いた遮熱性舗装の表面温度が標準の密粒舗装に比べてどの程度低下するかを示したもので、表面温度差が大きいほど、温度抑制効果が高いことを示している。8月の晴天日において、灰色系で15℃以上、黒色系の舗装でも10℃近い温度低減が確認された。一方、冬期においては、密粒舗装と遮熱性舗装の温度差はそれほど大きくない。
(2) 熱収支の変化
舗装面からは大気を直接加熱する顕熱が、大気と舗装面の温度差に応じて上空に輸送される。図2は測定結果に基づき整理した密粒舗装と遮熱性舗装の熱収支であるが、遮熱性舗装では密粒舗装に比べて顕熱輸送量が日中で半分程度に減少し、午前、午後で顕熱輸送量がほとんどない時間帯が密粒舗装に比べて長い。これは蓄熱量が少ないことを意味しており、熱帯夜問題解消にも効果的であることが示唆される。
(3) 都市大気への影響
東京23区の全道路に遮熱性舗装を導入した場合の気温低減効果を試算した。計算条件として、現状の舗装面のアルベド値は0.1、遮熱性舗装のアルベド値は0.6を与えた。遮熱性舗装導入による気温変化量を図3に示す。舗装の表面温度が低下したことに起因して、都心部で正午には0.8℃以上、午後2時でも0.6℃以上の気温低減効果が認められた。また、顕熱輸送量は80W/㎡以上も減少しており、保水性舗装や屋上緑化に匹敵する量となっていた。なお、今回のモデルでは路面反射が建物により吸収される影響(その逆も含む)は考慮されていない。
(4) 反射日射の大気による吸収
路面で反射される日射は、大気中に存在する空気分子やエアロゾルによって散乱されるとともに、水蒸気、酸素、二酸化炭素、オゾンなどにより吸収される。また、路面から放出される長波放射も、水蒸気や二酸化炭素などによって吸収され、大気から再び放射される。したがって、路面からの反射日射と長波放射のどちらがより大気の加熱効果が大きいかがポイントとなる。Kondo1)によれば、地表面から放出される長波放射は、日中、100m以下の大気を加熱し(放射加熱と呼ぶ)、高度5cm付近で14℃/時以上、高度1.5mでも約4℃/時の放射加熱が生じる計算となる。浅枝ら2)は、舗装面を対象として放射加熱の検討を行い、地上から数10mの高さまでは局所的に極めて多くの長波放射が吸収されると算定している。また、地表面に向かう日射の吸収量は高度にほとんどよらず大気層1m通過において1W/㎡であるのに対して、長波放射の吸収量(放射加熱量)は地上1mでおよそ10W/㎡/mと、日射の10倍となることが示されている2)。これらの知見からすると、反射日射で太陽からの入射エネルギーを上空に逃がす方が下層大気の加熱量は少なくなると考えられる。
(5) 反射日射が周囲建物に及ぼす影響
舗装面を囲うように建物が存在する街路空間の場合、舗装面で反射される日射の一部は沿道の建物に吸収されて壁面温度を上昇させるのではないかと考えられる。その程度は街路の幾何構造や建物壁面の熱物性、反射特性に依存する。キャノピーモデルを用いて試算したところ、建物が路面の反射日射の一部を吸収して壁面温度がわずかに増大するが、街路空間(キャノピー)全体としての反射率は増大することから、街路空間から上空大気への顕熱量は減少し、都市のヒートアイランド化を抑制する方向に働く。
(6) 人体への影響
人間の温冷感覚は人体の温熱生理反応の結果として現れる。人体への熱負荷が増えると暑さが助長され、より深刻には熱中症が誘発される。屋外における人体への熱負荷として最も大きな割合を占めるのは全天日射である。密粒舗装を遮熱性舗装に変えると、反射日射が増え、長波放射が減る。例えば、舗装面の反射率が15%から50%になることによって表面温度が60℃から45℃まで減少すると仮定すれば、夏期晴天日・日中において人体が受ける反射日射の増分は約150W/㎡、長波放射の減分は約60W/㎡となる(射出率1、人体の形態係数0.5と仮定)。この大小だけで議論すれば遮熱性舗装は人体への熱負荷を増大させる方向に働くが、実際には地上近傍の気温場や人体足下から伝わる熱伝導に変化が生じて、熱負荷を軽減する方向に作用すると考えられる。したがって、今後はこれらも考慮した温冷感覚評価の検討や、現地スケールでも実証的な温冷感覚評価が必要である。
3. まとめ
遮熱性舗装の熱環境改善効果について様々な視点から定性的あるいは定量的な評価を試みた。まだ最終的な結論が得られていない点もあり、引き続き検討が必要である。また、日中建物等の影になる時間が長い所ではあまり効果的ではないことを考えると、遮熱性舗装の適用範囲に関しても、より定量的な議論ができるようにする必要がある。むろん、より安価で高性能・高耐久性を有する遮熱性舗装の開発も重要である。
- 参考文献
- 1) Kondo, J.:Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol.49, No2, 75-94, 1971
- 2) 浅枝ら: 加熱された舗装面上空の大気加熱過程の解析、土木学会論文集No.467/ⅠⅠ-23, 39-47,1993
- 14.遮熱性舗装による都市熱環境改善効果に関する考察 >>ダウンロード